対象として取り上げられなかったらしいのは、従来の文学批評家の文人気質によるというよりは、愛国的熱情があまって真実を追求しようとする意力の欠如が、文学としての価値を低めているがためだろう。
 よき文学は、叙述のうまさや、文才だけによっては生れない。また、記録的素材だけによっては生れない。このことは水野広徳の「此一戦」についても云われるだろう。

   第五章 結語、西欧の戦争文学との比較、戦争文学の困難

 以上のほか、武者小路実篤の「或る青年の夢」、芥川龍之介の「将軍」のもっと詳細な検討、細田民樹の「ある兵卒の記録」について、この三つの作品は、いずれも大正年間になって出されたものであるが、明治以後、戦争文学が如何に発展したかを見るために一応触れて置きたいと思っていた。しかし、予定の紙数の制限に近づいたので、別の機会に譲る。
 明治の諸作家が戦争を如何に描いたか、戦争に対してどんな態度を取ったかは、是非とも研究して置かなければならない重要な題目である。若し戦争について、それを真正面から書いていないにしても、戦争に対する作家の態度は、注意して見れば一句一節の中にも、はっきりと伺うことがある
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