には、各々、戦闘の片影が残されていた。森をくゞりぬけて奥へパルチザンを追っかけたことがある。列車を顛覆され、おまけに、パルチザンの襲撃を受けて、あわくって逃げだしたこともある。傷は、武器と戦闘の状況によって異るのだ。鉄砂の破片が、顔一面に、そばかすのように填《はま》りこんだ者は爆弾戦にやられたのだ。挫折や、打撲傷は、顛覆された列車と共に起ったものだ。
負傷者は、肉体にむすびつけられた不自由と苦痛にそれほど強い憤激を持っていなかった。
「俺《お》ら、もう十三寝たら浦潮へ出て行けるんだ。」大西は、それを云う時、嬉しさをかくすことが出来なかった。
「そうかね。」
栗本は、ほゝえんで見せた。彼は内地へ帰れることを羨んだ。その羨しさをかくそうとすると、微笑が、張り合いのぬけた淋しいものになる。それが不愉快なほど自分によく分った。
「なんか、ことづけはないかい?」
「ないようだ。」
「一と足さきに失敬できると思うたら、愉快でたまらんよ。」
そこにいる者は、もはや、除隊後のことを考えていた。彼等の胸にあるものは、内地の生活ばかりであった。いつか、持って来た慰問袋を開けていると、看護長がぶら/\
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