半にひゞいて来るどっかの銃声や、叫喚が面白く名残惜しいものに思われてきた。それらのものを、間もなくうしろに残して内地へ帰ってしまえるのだ。
「みんなが一人も残らず負傷して内地へ帰ったらどうだ。あとの将校と下士だけじゃ、いくさ[#「いくさ」に傍点]は出来んぞ。」
声が室外へ漏れんように小さく囁き合った。
「やっぱし、怪我をして内地へ帰るんが一番気が利いてら。」
「こん中にゃ、だいぶわざと負傷してきた奴があるじゃろうがい?」大西は無遠慮に寝台を見まわした。「そういう奴は三等症だぞ。」
「三等症どころか、懲罰だ。」
どう見ても、わざとの負傷と思われる心配がない、腰に弾丸《たま》が填《はま》っている初田が毛布からむく/\頭を持上げた。
「馬鹿云え、誰れが好んで痛い怪我をする奴があるか!」
彼等は平和だった。希望に輝いてきた。
また、繰り方を換えた。あした、あさって、しあさって、と。もうあと三日だ。と、新しい負傷者が、追いつこうとするかのように、又どか/\這入ってきた。その中にアメリカ兵と喧嘩をして、アメリカ兵を軍刀で斬りつけた勇士があった。
それは彼等をひどく喜ばした。砲兵の将校だっ
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