方へ、二三枚の木葉舟《このはぶね》のように小さく、遠くなって行った。列車の顛覆と同時に、弾丸《たま》の餌食になった兵士が運ばれて行ったのだ。
観音経をやりながら、ちょい/\頓狂に笑う伍長をのけると、みんな憂鬱にベッドから頭を上げなかった。
「まだ、俺等は運がよかったか!」
栗本は考えた。ベッドには、一人の患者がいなくなると、また別の傷病者がそのあとへやって来る。それがいなくなると、又次の者がやってくる。藁蒲団も毛布も幾人かの血や膿《うみ》や汗で汚されていた。彼は、それをかむって、ひそかに自分を慰めた。
負傷者は、死ぬまで不自由と苦痛を持ってまわらなければならない、不具者だ。
彼等は、おかみ[#「おかみ」に傍点]から、もとの通りの生きている手や足や耳を弁償して貰いたかった。一度切り取られた脚は、それを生れたまゝのもとの通りにつけ直すことは出来ない。それは相談にかゝらない。でも、出来ても出来なくても無理やりに弁償を強要したかった。不服でむか/\してやりきれなかった。そういう激しい感情を林へ引いて行かれる橇を見て自ら慰めるよりほか、彼等には道がなかった。彼等と一緒に兵タイに取られ、入
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