「どいつも、こいつも弱みその露助みたいに呻きやがって!」見廻りに来た、恩給に精通している看護長が苦々しく笑った。「痛いくらいが何だい! 日本の男子じゃないか! 死んどる者じゃってあるんだぞ。」
右を見ると、よく酒保の酒をおごって呉れた上等兵が毛布の下に脚を立て、歯を喰いしばりじっと天井を見つめていた。その歯の隙間から唸る声が漏れていた。看護長の苦々しげな笑いに気がつく余裕さえ上等兵には無いようだった。
「自分がうるさいから叱っているんだ。」と栗本は考えた。「俺等のためなんど思っても呉れやせんのだ! どうしてこんなところへやってきたんだ! どうして、あんな引っくりかえされる列車に乗って行ったんだ!」
と、又溜息が出て、呻かずにはいられなくなった。
――遠いはてのない曠野を雪の下から、僅かに頭をのぞかした二本のレールが黒い線を引いて走っている。武装を整えた中隊が乗りこんだ大きい列車は、ゆる/\左右に眼をくばりつゝ進んで行った。線路に添うて向うの方まで警戒隊が出されてあった。線路は完全に、どこまでも真直に二本が並んで走っている。町は、まもなく見えなくなり、列車は速力が加わってきた。線
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