にも、その魔手をのばさんとする状態にある。山東は満蒙の障壁として、又、重大なる価値を有するものである。山東ありて、満蒙も安全たり得るのである。況んや山東が、その地理的優越に於て、その軍需的価値に於て、その黄河流域無限の富庫を後方地帯に抱容する点に於て、我等は国防上、国民生活上、永久にこれを勢力圏中より逸し去ることは出来ない。米国資本家の如きは、早くも黄河の氾濫地帯が棉花栽培に適することに着目し、調査の歩を進めている。もし、この地に棉産を得るとせば、日本は米国より棉花の輸入を仰がずとも済む時節が来るかもしれない。日本にして、山東の主人公たる優越的地位を失うならば、日本は将来、鉄と石炭との独立を全うすることが出来ない。のみならず、日本は北支那より退却し、退嬰自屈《たいえいじくつ》の政策の下に、国運の日に淪落《りんらく》に傾くことを如何ともなし能わざるに至るであろう。支那大陸広しと雖も、我が経済的勢力の絶対に支配する地域は、満蒙を除けば山東あるのみである。日本は過去十余年間、巨額の資本と高貴なる犠牲(日独戦争)を払いて、山東の資源を開発し、現に邦人の投資額約一億五千万円に達する。我等は、我が
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