でんぐでんに酔っぱらっていた。これが軍曹だろう。
囚徒は、刑場へ引いて行かれる途中で目につく店舗のあらゆる品物を欲するがまゝに要求した。舗子《プーズ》の主人は、やったものから代金は取れなかった。役人は、囚徒が食い飲んだものゝ金は払わなかった。しかし、どんな業慾《ごうよく》なおやじ[#「おやじ」に傍点]でも、一時間か二時間の後に地獄の門をくゞる囚徒の要求は拒絶しなかった。
土匪は遉《さす》がに、あの世へ持って行けない金銀の器物はほしがらなかった。ひたすら、酒か、菓子か、果実か、煙草を要求した。露天店の、たった一箇二銭か三銭の山梨を、うまそうに頬張らして貰うしおらしい奴もあった。
見物の群集は、俥が進むに従って数を加えた。馬の糞やゴミでほこりっぽい、広い道にいっぱいになってあとにつづいた。
駅前の広場には、また別の、もっと/\数多い真黒な群集の山が待ちかまえて、うごめいていた。
そこには、刑場らしい、かまえも、竹矢来も、何もなかった。しかし、そこへ近づくと、土匪の表情は、さっと変ってこわばってしまった。唸くような、おがむような、低い、聞きとれない叫びが俥上からひびいた。足の鉄錠が
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