りしていた。見えぬところは手を抜いてあった。
この新築に関係した村会議員の涜職事件が村の者達の前にだん/\曝露されだした。
親爺は、前に、買収の罪をきせられた意趣がえしもあった。たしかにあった。彼は『松葉屋』や『庄屋』がその同類として引き込みに手を廻して来るのを、きっぱりとはねつけた。
幹太郎には、すべてが、つい一昨日の出来事のようにまざまざと躍っている。彼は、頑丈で、闘志があって、米俵をかつぐ力持にかけては村中、誰も親爺に及ぶ者がなかった。[#「。」はママ]素朴なあの親爺の一ツ、一ツを、はっきりと手に取るように覚えていた。だが、それは十年も昔、いや、もう十三年も昔のことに属するのだ。
三月のことだった。畠の、端々に、点々と一と株ずつ植えられた食わずの貝のような蚕豆《そらまめ》の花が群がって咲きかけていた。親爺には一寸留守にしなければならない事件が起った。妹が嫁入ったさきで折合いが悪く、すったもんだやっていたのだ。親爺はK市の海岸通りの船具屋である、その義弟の家へ出かけた。
事件は、すべて彼の留守中に悪化した。『松葉屋』も、『網元』も、『庄屋』も、証拠不十分で不起訴になった。
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