れが、すったもんだの揚句、罰金をとられることになった。あとから二升だけ酒を買い足し、偶然来あわした一人の男に盃したのが悪いというのだ。
 村会議員は、ごた/\言い出して、すぐ自分から引いてしまった。
 補欠選挙が来た。親爺は家に引っ籠って、謹慎の意を表した。もう、家に火をつけて全《ま》る焼けにするとおどかされたって、議員などになる意志は毛頭なかった。彼は憤慨に堪えなかった。そんな時、蒲団を引っかぶって寝て我慢するたちだった。その時も、敷き流して脂垢《あぶらあか》にしみた蒲団から、這い出て飯を食うと、また、そこへ這いこんだ。三日ばかりを無為に過した。ところが、よせばいゝのに、『松葉屋』の小作人達が、また、親爺に投票した。
 再選した。親爺にもいくらか色気が出た。
 それから間もなくである。
 二年前から取りかゝっていた学校の新築は落成した。田舎村のその時代としては、驚嘆すべき三万円がかゝっていた。それは洋式だった。青味がかったペンキを塗り立ててあった。屋根はスレート葺きだ。棟は鋭角をなして空中に高く尖っていた。しかし、柱や梁は古木で細く、所々古い孔へ埋め木をしたり、別の板で中味をかくした
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