あるのだ。
彼は、親爺が故郷を追われたことを思った。
親爺のような人間が、植民地へ来て、深みへ落ちてしまうのは、四人や五人ではきかないだろう。
いや、幾人あるかしれないだろう。ここは、みな、郷里に居づらくなった者ばかりが来るところだ。食い詰めて頸が廻らなくなった者か、前科を持っている者か、金を儲けて、もう一度村へ帰って威張りたい、俺を侮辱しやがった奴を見かえしてやろう! と、発憤した者か、そして朝鮮や満洲に渡って、そこでも失敗を重ね、もっと内地とは距った遠い地方へ落ちねばならなくなった者がやって来るところだ。
竹三郎は、九ツの幹太郎と、五ツと、三ツのすゞと、俊を残して満洲へ渡った。
村の背後には、川を隔てて高峻な四国山脈が空を劃《くぎ》っている。前面は、波のような丘陵の起伏と、そのさきの太平洋に面した荒海がある。幹太郎は、その村で、ほかの子供たちから除《の》け者にされながら少年時代を過した。太陽は、山に切り取られた狭い、そして、青い/\、すき通った空を毎日横ぎった。春には山際の四国八十八カ所の霊場の一つである寺の鐘がさびた音で而もにぎやかに村の上にひびき渡る。遍路が、細い山路
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