んだ。支那の連中に大いにやって貰わんことにゃ、俺等の内地の仕事もやりにくいんだ!」
 その高取がいなくなった。
 柿本には、最後の言葉だけは、まだ、意味がはっきり分らなかった。
 幹部は、城内に頑張っている南軍よりも、土匪よりも、猿飛佐助のまく伝単や高取や、工人たちと一つになった兵士の赤化を一番に、気にやんでいた。それを一番怖がっていた。
 それは争われなかった。

     三二

 この日、また、死にもの狂いの猛烈な攻撃が試みられた。
 午後三時、柿本は、ゴミの中で城壁のかげから飛来した弾丸に肩をうちぬかれた。一群の負傷者にまじってトラックに揺られ病院に来た。
 負傷兵は、どの病室にも、いっぱいにあふれていた。担架にのせられ、歩ける者は歩いて、あとからどん/\這入り得るだけの密度で、病室につめこまれる。外科病棟は、びっしりとなっていた。内科病棟と伝染病棟の一部にも、負傷者は這入っていた。
 柿本が入れられたのは支那人を追い出した、支那人への施療《せりょう》病室だった。白ペンキが禿げた鉄寝台、汚点《しみ》だらけの藁蒲団、膿《うみ》くさい毛布。敷布や、蒲団蔽いはなかった。普通の病室より
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