、ことは分っていなかった。地下の秘密室にかくして置いた銀貨まで、あとで帰って行ってみるとなくなっていた。それも分っていなかった。
「普利門は、一番、被害のひどかった方面じゃないか。」
「そうらしいんだ。まだ、見に行くことも出来ねえんだ。」「俺等は、何のためにここへ来とるんだね?――折角やって来て、自分の肉親さえ、保護することも見ることも出来ねえって、……身体だけでも無事でいてくれればいゝがね。」
「うむ、気にかゝって仕様がないんだ!」
「俺等が、わざわざここまでよこされて、本当の親がいるとしてもだ、その親を守ることさえ出来ないんだぞ。……これが真相だよ。これが現在の、われ/\の置かれている位地の真実の姿だよ。大金を持っている奴等だけしか守られはしないんだ。そのために、俺等を犠牲にすることは、いくら犠牲にしたって、なんとも思っちゃいないんだ。」と高取はつゞけた。「ここで、工場を守らしながら、工人は、いじめつける。南軍は、追ッぱらわす。満洲の利益は、ちゃんと、これで確実に握りしめて置こうと考えているんだ。満洲が、奴等にとっちゃ、一番大切なんだからね。俺等は、月七円かそこらの俸給を貰うだけだ
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