へかえって脚をのばした。午前二時頃、彼らは、恐ろしい夢にうなされた。宿舎の二百人ばかりのつわもの[#「つわもの」に傍点]が、同時に、息の根をとめられ、うーッと唸って、現《うつゝ》で立ちあがった。苦るしまぎれに、両手でむちゃくちゃに空気を引ッかいた。
 これは、内地で、早足行進に、どうしてもすね[#「すね」に傍点]が伸びない初年兵が、教官にボロクソにこづきまわされて、古いお城の松の枝で頸を吊って死んだ、その晩にうなされたのと同じ現象だった。その時にも、中隊全部が、息の根をとめられた。唸った。そして同時に眼がさめた。何と説明していゝか分からない。
「これは、何か不吉なことが起っているぞ。」
「俺れゃ、自分がしめ殺されたと思うた。……つらくッて、どうしても息が出来なかった。」
「誰れかゞ、現に、やられている! 無理、無法にやられている!」
 正気づくと、彼等は云った。
「高取はいるか? 高取! 高取はいるか? どうも、俺れには、高取が、誰れかと一緒に眼のさきへやって来たような気がしてならん!」
 柿本が、まだ、幻影を見ているような顔をして云った。
 冷やッと、身が深い底へ引きずりこまれる感じ
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