の掠奪が市街戦のきっかけとなった。中津の乱暴を見て、附近にうよ/\している青い服が押しよせてきた。家は叩き毀《こわ》された。それをきいたカーキ服が馳せつけた。撃ちあいはすぐ始まった。そして、瞬くひまに全市にひろがってしまった。まるで、用意をして、待ちもうけていたものゝように。
猛烈な、有名な市街戦が、これから引き起されて行った。
KS倶楽部の土間は、命からがら、身をもって逃《の》がれて来た人々で埋まっていた。
避難者は、そのあとから、まだ、まだ押しよせて来た。
青鼠色の南兵に、出口をふさがれ、壁を破って隣家へ逃げ、支那服を借りて、通りかゝった洋車のあと押しをして、苦力に化けてのがれてきた男があった。妻が南兵に拉《らつ》し去られるのを目撃しつゝ、自分だけ、のがれてきた男があった。毛布、風呂敷包をかゝえて来る者。サル又と襦袢だけの者。父親の背に背負われて、身体の具合が悪いような泣き声で眼が赤い小さい子供。
「まあ、百々《もも》ちゃんはえらいんですよ。私がつれて避難して来る時に、若し、南軍に掴まったら、どうするかってきくとね、おッ母さんと一緒に剃刀《かみそり》でのどをかき切って死ぬ
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