た。ボーイは毛布をもってきた。
「それじゃないよ。ロシア毛布じゃないか。」
 赫は大声で呶鳴った。
 中津の金のバラ撒き方は荒かった。向うにいた別の、少女のような美しいボーイが、赤茶色のロシア毛布を手にして馳せ出してきた。
「うむ、これこれ。」赫は階段のところでそれを受取った。手のこんだ、厚い、いくらか、はしッかいような毛布だ。赫は、ちょっと、両手をひねらした。と思うと、一瞬に、スッポリと美しいボーイを頭から毛布にくるんでしまった。
「※[#「口+愛」、第3水準1−15−23]呀《アイヤ》!」ボーイは不意打ちを喰って、びっくりした。
「どうだい、こうやるんだ。」自分の手に入ったやり方を誇らしげに、赫は、ほかの者達を見まわした。
「こうやればもうしめたもんだ。」
 中津は満足げに笑っていた。
 山崎は、この五人のゴロツキどもを、なお、未練げになにか釣銭でも取ってやりたいように見送っていた。ふと、彼は中津の耳もとへ馳せよって、何事かを囁いた。中津は頷いた。――いくらかの金が中津へ渡された。……
 自動車は、太馬路《タマル》から、拒馬や、鉄条網が、頑張っていない、緯《ウイ》四|路《ル》へ出て
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