と歩いてきた。
 彼等は、昔、本国から極東へ逃げ、シベリアから支那へ落ちのびて来た。着のみ着のまゝの彼等の服装は、もう着破って、バンド一条さえ残っていなかった。が、彼等は、金がなくても、どこからか、十年前の趣味に合致した服や外套を手に入れてきた。汚れた黒い毛皮のコサック帽も、革の長靴も、腰がだぶつき、膝がしまっている青鼠のズボンも、昔に変らぬものを、彼等は、はいていた。
 頭も肩も、低い支那人から遙かに高く聳《そび》えていた。
「今月は、いくら月給を貰ったい?」
 支那服の大褂児《タアコアル》の男が、彼等と並んで歩き乍《なが》ら、話しかけていた。これは山崎である。
「一文も貰わねえや。」
「先月は、いくら貰ったい?」
「先月だって、一文も貰わねえや。」
「先々月は?」
「先々月だって一文も貰わねえや。」
「ひっぱたいたれ!」支那服の山崎は声をひそめた。「かまうもんか、ひっぱたいたれ! あの大男の張宗昌のぶくぶく肥っている頬ッぺたをぴしゃりとやったれよ。」
 白露兵は、ふいに、愉快げに上を向いて笑いだした。
 彼等は、頭領のミルクロフが、張宗昌に身売りをした、そのあとについて、山東軍に買
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