った眼を細めながら、賛成するように頷いた。
「やっぱし、君等は、馬賊の習慣から、ぬけきれねえんだ。」
 中津は笑った。
「そんなこというのは、理屈ッぽいあの娘の兄と君だけくらいなもんだよ。この広い支那じゅうで。」
「いいや。俺れゃ真面目に云ってるんだ。君のために。」
「真面目もへったくれも有ッたもんかい!……気に入りゃ、かっぱらって嬶《かかあ》にするし、いやになりゃポイポイ売ッとばすんだ。世話がなくって、どれだけ気しょくがいいか知れめえ!」
「あんまり増長するなってよ! 俺れゃ歩哨線の通過なんか知らねえぞ。」
「ふふふ。……知らなきゃ、知らなくッてもいゝさ。その代り俺れの方もバラシてやるから、――ネタはいくらでも豊富に掴んでんだぞ。」
 これはおどかしだった。
 集まった五人は、出発前の酒杯をとった。五人に較べると、山崎は、まだ、どこともなく日本人くさい感じが残っていた。さかずきをすゝめてもプリッとしてのまなかった。その身肌につけている五挺の、全部弾薬をこめたピストルは、大褂児の上から、胸に二挺、両脇に二挺、右の腰のポケットに一挺と、一寸した服の凸凹によって見破られた。――このケチン坊
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