はそれが、金を貸すのが嫌いだからとめていると取れた。それは急所を突いていた。そして、彼はとめられればとめられるほど、依怙地《いこじ》になった。
「よさないか、おい、そんなことは……」と、山崎は云った。「郷票をかっぱらうんなら、まだ分るが、鐚《びた》一文もない軟派の娘をかっぱらってどうするんだい。ええ、冗談じゃないぜ。」
「黙ってい玉え!」中津は、時刻が迫れば迫るほど、動揺をかくして、糞落ちつきに落ちついていることを示そうとした。
「君が、芯からそんなに熱心なら、なにも、かっぱらわなくたって、結婚を申し込めばいいじゃないか。野蛮な暴力的なことをやらなくたって、正式に娘を貰えばいいじゃないか、それなら俺れだって賛成だ。」
「馬鹿云い玉え!」と中津は笑った。「張大人だって、北京の東安市場《トンアンシーチ》へ行く途中で、ちょっと見た別嬪を早速、自動車へかっぱらって、タイタイとしちゃったじゃないか、俺等にゃ結婚申込なんて、お上品なやり口は、性に合わねえんだ。ほしいものは、どんどん遠慮なしにかっぱらって行く方が、はるかに、面倒くさくなくて愉快じゃないか。」
 中津の仲間の赫富貴《ヘイフクイ》は、濁
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