機関銃の角をはやし、地響きを立てて疾駆してきた。犬がうろつく。
「チエッ! こういうことをやるからいけない!」
山崎は、頭から、自動車の土塵埃にまかれて、親方が弟子の失策を不満がるように舌打ちをした。彼は、彼として深い計画を持っていた。彼は、そのために苦心した。利用し得る人間は、誰れでも利用した。中津も利用される株だった。
「こういうことをやるからいけない。勝とうと思えば、まず負けろ! だ。」
彼は中津にむかって呟いた。
「勝つも負けるもねえじゃないか、そこらの蟻は、大砲を持ってきて、一となめに、なめッちまえばいゝじゃないか!」
「それが……すべて、仕事には、大義名分が立たなけゃ、勝っても、勝った方が負けとなるんだよ。」
「君等のやることはいつも面倒くさいね!」
山崎は、中津の剛胆さ、支那人の間にきく顔の広さを好いていた。それは、利用できる一ツの財産だ。しかし、この一とすじものでないゴロツキは、ほかの空想に夢中になって、彼の相談に乗ろうとしなかった。それが気に喰わなかった。
――顧祝同が、津浦線停車場と、無電局を占領している。それは、甚だ危険なことだった。それは最もひどく山崎を
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