なんでいたのを掴まえてきた話をした。
「あれでしゅよ。あれでしゅよ。」
 入口で、眼をウロ/\やりながら、慄えている、よごれて蒼い支那人を指さした。二十一歳だった。額に三ツの瘤があった。ついさきほど、彼に殴られて出来た瘤だった、紅く血がにじんでいた。
「間のぬけた野郎もあったもんだね。張宗昌の兵タイにだって、逃げて捕まるような馬鹿はいねえだ。」中津は嘲笑した。「いっそ、オトシちゃどうです。ほかの奴等に、又とない、ええ薬となりますぞ。」
 中津の殺伐な眼は、舌なめずりでも始めそうにかゞやいた。
 小山は眼を細めて反対しなかった。兵士が顔をあげて、今更、珍らしげに中津を見た。
 睨み合いと、石の飛ばしあいをやっていた方向で銃声がした。みな、耳を傾けた。山崎と中津は急いで外に出た。山崎は、最前から軍曹に云いつけて置いたことを、も一度念を押した。
「は、は。」
 軍曹は、暗がりの中で、彼の背にむかって頭をさげていた。
 通りで、浮浪漢が、銃声の方向へ物ずきに馳せて行く。纏足が、その方向から逃げて来る。又、銃声がした。まもなく、この小衝突の一方を敷きつぶしてしまうかのように、灰色の装甲自動車が、
前へ 次へ
全246ページ中184ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
黒島 伝治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング