この倉矢や、衣笠などの働き振りをみんな見習え! 十分|鶴嘴《つるはし》に力を入れて!」特曹は、訓練所出の一群を指さした。「高取! もっとしッかり麻袋にドロをつめる!」
「特務曹長殿! この袋の鼠の喰った穴はどうするんでありますか。藁を丸めてつめて置きましょうか?」
「うむ、うむ、そうしろ。」
口の曲った特務曹長は、同じ訓練所出の松下に、満足げに頷《うな》ずいて見せた。
又、ほかのが、向うの方で、何か、ゴマすっていた。
それを、聞きのがさなかった高取は、苦笑を繰りかえしていた。(見えすいている!)
一時間十五分の後、命令された通りの巨大な防禦設備が出来上った。これなら、鬼でも来ろだ。
兵士たちは、くた/\になって宿舎へかえった。ドロまみれの手も、鼻も、頸も洗えなかった。水がなかった。昼食喇叭が鳴り渡る。向うの蛋粉工場からも、呼応して鳴り渡る。
「支那ちゅうところは、まだ四月だのに、もう七月のような陽気だなあ。……ああ、弱った弱った、暑いし、腹はぺこぺこになりやがるし。……」
飯盒にわけられた、つめたい飯をかきこんだ。
「どいつもこいつも、水筒が、みんなからっぽだな。――当番!
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