。――云ったら、情報料をくれますか? 五円でいゝですよ。たった五円でいゝですよ。」
「出すさ、物によっちゃ出すさ。」
「呉れなけりゃ、山崎さん、儲かりすぎて、金の置き場に困るでしょう。」
 山崎は、唇から気に喰わん笑いをこぼした。
「何だね?」
「――土匪が出たんですよ。昨日、※[#「さんずい+樂」、第4水準2−79−40]口《ロンコー》の沼へ鴨打ちに行ったら、土匪がツカ/\っと、六、七人黄河の方からやって来たんですよ。」
 幹太郎は笑い出した。
 情報料は冗談だと云いたげな、罪のなげな笑い方をした。
「乗って行った自転車を打っちゃらかして逃げて来たんですよ。ケントの上等だったんですがな。」
 山崎は、出て来る苦笑をかみ殺していた。国家(?)の安否にも関係する重大なことをあさっているのに、何ンにもならんことで茶化すんねえ! そんな顔をした。それに気づいた幹太郎は、彼の方でも、次第に硬ばった、不自然な笑い方になった。
 そこへ、胴ぐるみの咳をつゞけながら小山が出て来た。
 一日分の請取り仕事を終った工人達は、色のあせてしまった顔で出口ヘやって来はじめた。幹太郎は、山崎と一緒に事務室へ歩い
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