は、小さくなって、うしろの方へ引きさがった。
「これゃ、どっちにしろ戦争だ!」彼は、帰りがけに、陳に囁いた。「だが、今夜こそ、俺れゃ、お前に感謝するぞ。これで、すっかり手柄を立てることが出来た……何んて、気しょくのいいこっだろう!」
「金のこたア、忘れやすまいねえ?」
陳は、興ざめて冷静だった。
「うむ、いゝいゝ、忘れるもんか。きっとむくいるよ。だが、どっちにしろ、これゃ戦争にならずにゃいないぞ……」そして、彼は考えた。「これは、南軍と日本軍との戦争じゃない。これは、日本とアメリカの戦争だ。」
一五
ここは、早晩、陥落するものときめられた。
いわゆる『粒々辛苦の末に開拓した経済的基礎』が、水泡に帰するだろう。家も、安楽椅子も、飾つきの卓も、蓄音機も、骨董や、金庫も、すべて、ナラズ者の南兵の掠奪に蹂躪《じゅうりん》されてしまうだろうと居留民たちは考えさせられた。残虐な共産系が南兵には多数まじっている。良民を串刺しにし、道々墓を発《あば》いているという流言が飛んだ。
停車場は、持てるだけ荷物をかゝえこんだ青島への避難者でごった返した。
七ツか八ツの少年が、自分の身
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