て、それを、計画し、空想するのが愉快だった。中津は、山崎が、すゞのことを云いだしたついでに、こころよげに、にこ/\しながら、自分の計画を打ちあけた。
「君は、一体いくつだね?」と、山崎はきいた。
「五十三さ。」
 別に、中津は不思議がらなかった。
「あの娘ッ子は、君の子供ぐらいの年恰好なんだよ。恐らく、君の三分の一しか年はとっていまい。」
「それがいゝんじゃないか。君には、俺れのこの気持が分らないんだ。あの、軟らかい、子供々々したところが、とてもたまらなくいゝんじゃないか。俺れゃ、この年になるまで、あんな娘は見たことがない。何と云っていゝか、……俺れの全存在を引きつけるような、とても、なんとも云えん気持なんだ。」
「いゝ年をして、生若い、紺絣の青年のようなことを云ってら!」
「そんな軽々しい問題じゃないよ。俺れゃ、君がどう云ったって、この決心は、やめられやせん。」
「ふふふッ、」山崎は冷笑した。「ちょっと、可愛いゝ娘ではあるが、……しかし、君なら、あの娘のおッ母アが丁度持って来いだ。あの婆さんと夫婦なら似合ってら。どうだい、あの親爺はヘロ中で領事館に叩ッこまれとるし、婆さんをひとつもの[#「もの」に傍点]にしちゃどうだい? それなら、俺も手を貸してやるよ。」
「冗談はよせやい。――あんな腐れ婆にゃ、あき/\していら。何と云ったって、俺れゃ、処女でなけゃ駄目なんだ! 処女の味は、また、特別なもんだ! 二度とあんな娘は手に入れやしない!」

 小山は支那家屋の兵士たちに、糞喰え! のような顔をして、そこを立ち去った。捕まえられた工人は彼のあとにつゞいた。

     二五

 竹三郎は、領事館警察の留置場から、S病院に出た。
 彼は、瀬戸引きの洗面器の縁で、自分の足の小趾《こゆび》をぶち切った。
 それで留置場から出ることが出来た。内地から来たての、若い外務省巡査が、しけこんだような顔をして、彼を監視して病院へついて来た。
 マッチ工場で、蒋介石の抗議による守備区域の障害物の撤退、南軍と、日本軍との衝突の危険、などについて、軍隊自身よりも、支配人が気をもんだ。社員は、朝からそわそわした。
 工人が、北伐兵の過激派と策応しないとも限らない。十時頃、幹太郎は、親爺が、S病院に出たことを知らされた。
 お母《ふくろ》と、だぶ/\の詰襟の支那人が、咎めたてる巡警をつきのけて、い
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