たのに、今度は、一坪もふれていない。そんな者もあった。恐慌が来た。うまい儲けにありつけると思って、田を荒らして、待ちかまえていた。それだのに、そのあてがはずれてしまった。呆然とした。
新規の測量で、新しく敷地にかゝったものは喜んだ。地主も、自作農も、――土地を持っている人間は、悲喜|交々《こも/″\》だった。そいつを、高見の見物をしていられるのは、何にも持たない小作人だ。
「今度もみんごと、家にゃ、四ツところかゝっとる。」と、親爺は、胸をなでおろした。「しかし、先の方が痩地ばかり取って呉れるようになっとったのに今度は分が悪るなっとるぞ。それに、こうかえられては、荒らした畠を、また作れるように開墾するんがたいへんじゃ。」
線路を、どうしてわざと曲りくねらすのか、それが変だった。直線が一番いゝ筈じゃないか。一寸、そんな気がした、すると、誰れかゞ、
「今度ア、伊三郎の田を入れるとて、わざと、あんな青大将のようにうね/\とうねらしてしまったんだぞ。」
こう云い出した。実際、今度は、伊三郎の田が、どいつも、こいつもひっかゝっていた。
「停留場を、あしこの田のところへ、権現の方のを換えて持っ
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