来ている。
 しかし農民と、工場プロレタリアとは、その所属する階級がちがっている。そしてプロレタリア文学が「前衛の立場に立って物を覗《み》、かつ描く」という根本的な方針が、既に、一年前に確立され、質的飛躍の第一歩がふみだされているとき、工場労働者とはちがった特殊な生活条件、地理環境、習慣、保守性等を持った農民、そして、それらのいろいろな条件に支配される農民の欲求や感情や、感覚などを、プロレタリアートの文学から、どういう風に取扱い、表現しなければならないか? それについては、まだ理論的にも実せん的にも、十分な、明確な解決がなされていない。
 日本の近代文学は、ブルジョア文学も、そして、プロレタリア文学も農民の生活に対する関心の持ち方が足りなかった。農民をママ子扱いにしていた。
 なる程、農民の生活から取材した作品、小作人と地主との対立を描いた作品、農村における農民組合の活動を取扱った作品等は、プロレタリア文学には幾つかある。立野信之、細野孝二郎、中野重治、小林多喜二等によって幾つかは生産されている。そこには、あるいはこく[#「こく」に傍点]明にはつらつ[#「はつらつ」に傍点]と、あるいは
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