っていた。井村は、坑内で、自分等が、どれだけ危険に身をさらしているか、それを検査官に見せ付てやろうとしたことが、全く裏をかゝれてしまったことを感じた。畜生! 検査官など、何の役にも立ちやしなかったんだ! はじめっから、何の役にも立ちやしなかったんだ! 彼は、やっと、それをのみこんだ。役員とぐるになったって、決して、俺等の味方にゃならんものであることが分ってきた。
「これから、又、S町で二次会だぞ。」
 阿見は、相かわらず、ずるげな、同時にこころよげな笑いを浮べながら、酒くさい息を坑夫達の顔にゲップ/\吹きかけた。
[#地から1字上げ](一九二九年十月)



底本:「黒島傳二全集 第二巻」筑摩書房
   1970(昭和45)年5月30日第1刷発行
入力:大野裕
校正:原田頌子
2001年9月3日公開
2006年3月25日修正
青空文庫作成ファイル:
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