知れん。そんな僥倖をたのみにした。事実天井は、墜落する前、椀をさかさまにしたように、真中が窪めて掘り上げられていた。
 皆は、掘出しにかゝった。坑夫等は、鶴嘴《つるはし》や、シャベルでは、岩石を掘り取ることが出来なかった。で、新しい鑿岩機が持って来られ、ハッパ袋がさげて来られた。
 高い、闇黒の新しい天井から、つゞけて、礫《こいし》や砂がバラバラッバラバラッと落ちて来た。弾丸が唸り去ったあとで頸をすくめるように、そのたび彼等は、頸をすくめた。
 松ツァンは、二本の松葉杖を投げ棄ててタガネと槌を取った。彼は、立って仕事が出来なかった。で、しゃがんだ。摺古木《すりこぎ》になった一本の脚のさきへ痛くないようにボロ切れをあてがった。
 岩は次第に崩されて行った。ピカ/\光った黄銅鉱がはじけ飛ぶ毎に、その下から、平たくなった足やペシャンコにへしげた鑿岩機が現れてきた。折れた脚が見え出すと、ハッパをかけるにしのびなかった。
「掘れ! 掘れ! 岩の下から掘って見ろ。」
 鶴嘴とシャベルで、屍《しかばね》を切らないように恐る/\彼等は、落ちた岩の下を掘った。腥《なまぐさ》い血と潰された肉の臭気が新しく
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