彼が困難な労働をして僅かずつ金を積んで来ているのに、醤油屋や地主は、別に骨の折れる仕事もせず、沢山の金を儲けて立派な暮しを立てていた。また彼と同年だった、地主の三男は、別に学問の出来る男ではなかったが、金のお蔭で学校へ行って今では、金比羅《こんぴら》さんの神主になり、うま/\と他人から金をまき上げている。彼と同年輩、または、彼より若い年頃の者で、学校へ行っていた時分には、彼よりよほど出来が悪るかった者が、少しよけい勉強をして、読み書きが達者になった為めに、今では、醤油会社の支配人になり、醤油屋の番頭になり、または小学校の校長になって、村でえらばっている。そして、彼はそういう人々に対して、頭を下げねばならなかった。彼はそういう人々の支配を受けねばならなかった。そういう人々が村会議員になり勝手に戸数割をきめているのだ。
百姓達は、今では、一年中働きながら、饉《う》えなければならないようになった。畠の収穫物の売上げは安く、税金や、生活費はかさばって、差引き、切れこむばかりだった。そうかといって、醤油屋の労働者になっても、仕事がえらくて、賃銀は少なかった。が今更、百姓をやめて商売人に早変りを
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