田舎から東京を見る
黒島傳治

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)肚《はら》の底では

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)三|反《たん》か

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)なか/\
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 田舎から東京をみるという題をつけたが本当をいうと、田舎に長く住んでいると東京のことは殆ど分らない。日本から外国へ行くと却て日本の姿がよく分るとは多くの海外へ行った人々の繰返すところであるし、私もちょっとばかり日本からはなれて、支那とシベリアへ行ったことがあるが、そのときやはり、日本がよく分るような気がした。しかし東京をはなれて田舎にいるのでは、その筆法は、あてはまらないような気がする。
 田舎へきて約半年ばかりは、東京のことが気にかかり東京の様子や変遷を知り進歩に遅れまいと、これつとめるのであるが、そのうちに田舎の自分に直接関係のある生活に心をひかれ、自分自身の生活の中に這入りこんで、麦の収穫の多寡や、村税の負担の軽重に、喜んだり腹を立てたり、近隣の噂話に耳を傾けて笑ったりするようになる。田舎の生活も決して単調で
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