はない。退屈するようなことはない。私の村には、労働者約五百人から、三十人ぐらいのごく小さいのにいたるまで大小二十余の醤油工場がある。三|反《たん》か四反|歩《ぶ》の、島特有の段々畠を耕作している農民もたくさんある。養鶏をしている者、養豚をしている者、鰯網をやっている者もある。複雑多岐でその生活を見ているだけでもなか/\面白い。このなかに身をひそめているのはひそめかたがあると思われるのである。
 二年、三年、田舎の生活に年期を入れてくるに従って、東京から送られる郵便物や、雑誌の数がすくなくなって、その郵便物の減りかげんは、田舎への埋れようの程度を示す。自分がここにいるということを人に知られずに、垣間から舞台をのぞき見するのはこころよいものである。私が東京を去って、この七月でまる四年になるが、その間に、街路や建物が変化したであろうと想像される以上に人間が特に文学の上で変っていることが数すくない雑誌や、旬刊新聞を見ても眼につく。殊に、それが現実の物質的な根拠の上に立っての変化でなく、現実の掛声に過敏になりすぎて――あるいはおびえて飛び立っているように感じられる。めまぐるしい文学上の主張や流行
前へ 次へ
全4ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
黒島 伝治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング