入営前後
黒島傳治

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)襦袢《じゅばん》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)くに[#「くに」に傍点]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)頭をくり/\坊主にして
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      一

 丁度九年になる。九年前の今晩のことだ。その時から、私はいくらか近眼だった。徴兵検査を受ける際、私は眼鏡をかけて行った。それが却って悪るかった。私は、徴兵医官に睨まれてしまった。
 その医官は、頭をくり/\坊主にして、眼鏡をかけていた。三等軍医だった。それが、私の眼鏡を見て、強いて近眼らしくよそおうとしているものと睨んだのである。御自分の眼鏡には、一向気づかなかったものらしい!
 そこで、私は、入営することになった。
 十一月の末であった。
 汽船で神戸まで来て、神戸から姫路へ行った。親爺が送って来てくれた。小豆島で汽船に乗って、甲板から、港を見かえすと、私には、港がぼやけていてよく分らなかった。その時には、私は眼鏡をはずしていたのだ。船は客がこんでいた。私は、親爺と二人で、荒
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