蓆で荷造りをした、その荷物の上に腰かけていた。一と晩、一睡もしなかった。
十二月一日に入営する。姫路へは、その前日に着いた。しょぼ/\雨が降っていた。宿の傘を一本借りて、雨の中をびしょ/\歩きまわった。丁度、雪が積っているように白い、白鷺城を見上げながら、聯隊の前の道を歩いた。私の這入る聯隊は、城のすぐ下にあるのだ。
宿は、入営する者や、送って来た者やで、ひどくたてこんでいた。寝る時、蒲団が一畳ずつしかあたらなかった。私は親爺の分と合わして一つを敷き一つを着て、二人が一つになって寝た。私は、久しく親と一緒に寝たことがなかった。小さい時、八ツか九ツになるまで、親爺と寝ていたが、それ以後、別々になった。私は、小さい時のことを思い出した。親爺の肌も、皺がよって、つめたかった。たゞ昔の通り煙草の臭いだけはしていた。私は、一夜中、親爺のその煙草の臭いをむさぼるように嗅いだ。そして、私よりは冷い、親爺に一晩中、くっ付いていた。明日から二カ年間、どこへも出ることが出来なくなるのだ。
二
薄暗い、一寸、物が見分けられない、板壁も、テーブルも、床も黒い室へつれて行かれた。造りが、頑
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