丈に、──丁度牢屋のように頑丈に出来ている。そこには、鉄の寝台が並んでいた。
これがお前の寝台だ。とある寝台の前につれて来た二年兵が云った。見ると、手箱にも、棚にも、寝台札にも、私の名前がはっきり書きこまれてあった。
二年兵は、軍服と、襦袢《じゅばん》、袴下《こした》を出してくに[#「くに」に傍点]から着てきた服をそれと着換えるように云った。
うるおいのない窓、黒くすゝけた天井、太い柱、窮屈な軍服、それ等のものすべてが私に、冷たく、陰鬱に感じられた。この陰鬱なところから、私はぬけ出ることが出来ないのだ。
軍服に着かえると、家から持って来たものを纒めて、私は外へ持って出た。
呼出されるのを待つため、練兵場に並んだ時、送って来た者は入営する者の傍に来ることが出来ないので親爺と別れた。それから、私がこちらの中隊へ来ることを、親爺に云うひまがなかった。各中隊へ分れて行く者の群が雑沓していた。送って来た者は、どちらにいるか、私は左右を振りかえってよく見たのだが、親爺は見つからなかった。それが、私が着物を纒めて中隊の前へ出て行くと、そこに、手提げ籠をさげた親爺が立っていた。
私は黙って
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