立っていた。
「特務曹長殿、何かあったんでありますか?」
「いや、そのう……」
特務曹長は、血のたれる豚を流し眼に見ていた。そして唇は、味気なげに歪んだ。彼等は、そこを通りぬけた。支那家屋の土塀のかげへ豚を置いた。
「おい、浜田、どうしたんだい?」
何かあったと気づいた大西は、宿舎に這入ると、見張台からおりている浜田にたずねた。
「敏捷な支那人だ! いつのまにか宿舎へ××を×いて行ってるんだ。」
「どんな××だ?」
「すっかり特さんが、持って行っちまった。俺れらがよんじゃ、いけねえんだよウ。」
だが、しばらくすると浜田は、米が這入った飯盒《はんごう》から、折り畳んだものを出してきた。
「いくら石塚や山口が×××たって、ちゃんと、このあたりの支那人の中にだって、俺れらの××が居るんだ! 愉快な奴じゃないか、こんなに沢山の人間が居るのに、知らんまに這入ってきて、×くだけ××を×いたら、また、知らんまに出て行っちまって居るんだ。すばしこい奴だな。」
二 慰問袋
壁の厚い、屋根の低い支那家屋は、内部はオンドル式になっていた。二十日間も風呂に這入らない兵士達が、高梁稈のアンペ
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