う、命じられた地点に来たと了解した。ところどころに、黒龍江軍の造った塹壕のあとがあった。そこにもみな、土が凍っていた。彼等は、棄てられた一軒の小屋に這入って、寒さをしのぎつゝ、そこから、敵の有様を偵察することにきめた。
その小屋は、土を積み重ねて造ったものだった。屋根は、屋根裏に、高梁稈を渡し、その上に、土を薄く、まんべんなく載せてあった。扉は、モギ取られていた。内部には、床も棚も、腰掛けも、木片一ツもなかった。たゞ、比較的新しいアンぺラの切れと、焚き火のあとがあった。恐らく、誰れかの掠奪にでもあったのだろう。
「おや、おや、まだ、あしこに、もう一軒、家があるが。」
内部の検分を終えて、外に出た大西が、ふりかえって叫んだ。それは五十米と距らない赭土の掘割りの中に、まるで土の色をして保護色に守られて建っていた。
「あいつも見て置く必要があるな。」
浜田は、さきに立って、ツカ/\と進もうとした。その時赭土の家からヒョイと一人の中山服が顔を出した。
「や、支那兵だ!」
彼は、一時に心臓の血が逆立ちして、思わず銃を持ち直した。すぐ様、火蓋《ひぶた》を切ったものか、又は、様子をうかがった
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