て、掃除をし、板仕切で部屋を細かく分って手術台を据えつけたり、薬品を運びこんだりして、表へは、陸軍病院の板札をかけた。
十一月には雪が降り出した。降った雪は解けず、その上へ、雪は降り積り、降り積って行った。谷間の泉から、苦力が水を荷《にな》って病院まで登って来る道々、こぼした水が凍《こお》って、それが毎日のことなので、道の両側に氷がうず高く、山脈のように連っていた。
彼等は、ペーチカを焚《た》いて、室内に閉じこもっていた。
二人は来《こ》し方《かた》の一年間を思いかえした。負傷をして、脚や手を切断され、或は死んで行く兵卒を眼《ま》のあたりに目撃しつゝ常に内地のことを思い、交代兵が来て、帰還し得る日が来るのを待っていた。
交代兵は来た。それは、丁度《ちょうど》、彼等が去年派遣されてやって来たのと同じ時分だった。四年兵と、三年兵との大部分は帰って行くことになった。だが、三年兵のうちで、二人だけは、よう/\内地で初年兵の教育を了《お》えて来たばかりである二年兵を指導するために残されねばならなかった。
軍医と上等看護長とが相談をした。彼等は、性悪《しょうわる》で荒っぽくて使いにくい兵
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