はさんだ。
「ネポニマーユ」吉田は繰返した。「ネポニマーユ。」
その語調は知らず/\哀願するようになってきた。
老人は若者達に何か云った。すると若者達は、二人の防寒服から、軍服、襦袢《じゅばん》、袴下、靴、靴下までもぬがしにかかった。
……二人は雪の中で素裸体《すっぱだか》にされて立たせられた。二人は、自分達が、もうすぐ射殺されることを覚《さと》った。二三の若者は、ぬがした軍服のポケットをいち/\さぐっていた。他《ほか》の二人の若者は、銃を持って、少し距った向うへ行きかけた。
吉田は、あいつが自分達をうち殺すのだと思った。すると、彼は思わず、聞き覚えの露西亜語で「助けて! 助けて!」と云った。だが、彼の覚えている言葉は正確ではなかった。彼が「助けて」(スパシーテ)というつもりで云った言葉が「有がとう」(スパシーポ)と響いた。
露西亜人には、二人の哀願を聞き入れる様子が見えなかった。老人の凄い眼は、二人に無関心になってきた。
向うへ行った二人の若者は銃を持ちあげた。
それまでおとなしく雪の上に立っていた吉田は、急に前方へ走りだした。すると、小村も彼のあとから走りだした。
「
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