まれ、銃をもぎ取られてしまった。
吉田は、南京袋のような臭気を持っている若者にねじ伏せられて、息が止まりそうだった。
大きな眼に、すごい輝やきを持っている頑丈な老人が二人を取りおさえた者達に張りのある強い声で何か命令するように云った。吉田の上に乗りかぶさっていた若者は、二三言老人に返事をした。吉田は立てらされた。
老人は、身動きも出来ないように七八本の頑固な手で掴まれている二人の傍《そば》へ近づいて執拗《しつよう》に、白状させねばおかないような眼つきをして、何か露西亜語で訊ねた。
吉田も小村も露西亜語は分らなかった。でも、老人の眼つきと身振りとで、老人が、彼等の様子をさぐりにやってきたと疑っていることや、町に、今、日本兵がどれ位い駐屯しているか二人の口から訊こうとしていることが察しられた。こうしているうちにでも日本兵が山の上から押しかけて来るかもしれない。老人は、そんなことにまで気を配っているらしかった。
吉田は、聞き覚えの露西亜語で、「ネポニマーユ」(分らん)と云った。
老人は、暫らく執拗な眼つきで、二人をじろ/\見つめていた。藍色の帽子をかむっている若者が、何か口をさし
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