ザンに相違なかった。
小村は、脚が麻痺したようになって立上れなかった。
「おい、逃げよう。」吉田が云った。
「一寸、待ってくれ!」
小村はどうしても脚が立たなかった。
「おじるこたない。大丈夫だ。」吉田は云った。「傍《そば》へよってくりゃ、うち殺してやる。」
でも、彼は慌《あわ》てゝ逃げようとした。だが、こちらの山の傾斜面には、民屋もなにもなく、逃げる道は開かれていると思っていたのに、すぐそこに、六七軒の民屋が雪の下にかくれて控えていた。それらが露西亜人の住家になっているということは、疑う余地がなかった。
山の上の露西亜人は、散り/\になった。そして間もなく四方から二人を取りかこむようにして近づいて来た。
吉田は銃をとって、近づいて来る奴を、ねらって射撃しだした。小村も銃をとった。しかし二人は、兎をうつ時のように、微笑《ほゝえ》むような心持で、楽々と発射する訳には行かなかった。ねらいをきめても、手さきが顫えて銃が思う通りにならなかった。十発足らずの弾丸は、すぐなくなってしまった。二人は銃を振り上げて近づいて来る奴を殴りつけに行ったが、間もなく四方から集って来た力強い男に腕を掴
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