助けて!」
「助けて!」
「助けて!」
二人はそう叫びながら雪の上を走った。だが、二人の叫びは、露西亜人には、
「有難う!」
「有難う!」
「有難う!」
と聞えた。
……間もなく二ツの銃声が谷間に轟き渡った。
老人は、二人からもぎ取った銃と軍服、防寒具、靴などを若者に纏めさして、雪に埋れた家の方へ引き上げた。
「あの、頭のない兎も忘れちゃいけないぞ!」
六
三日目に、二個中隊の将卒総がゝりで、よう/\探し出された時、二人は生きていた時のまゝの体色で凍っていた。背に、小指のさき程の傷口があるだけであった。
顔は何かに呼びかけるような表情になって、眼を開《あ》けたまゝ固くなっていた。
「俺が前以て注意をしたんだ、――兎狩りにさえ出なけりゃ、こんなことになりゃしなかったんだ!」
上等看護長は、大勢の兵卒に取りかこまれた二人の前に立って、自分に過失はなかったものゝように、そう云った。
彼は、他の三年兵と一緒に帰らしておきさえすればこんなことになりはしなかったのだ、とは考えなかった!
彼は、二個の兵器、二人分の被服を失った理由書をかゝねばならぬことを考えていた。
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