て行かせまいとした。
「聯隊から貰ってきたんです。」吉田が云った。
「この頃、パルチザンがちょい/\出没するちゅうが、あぶないところへ踏みこまないように気をつけにゃいかんぞ!」
「パルチザンがやって来りゃ、こっちから兎のようにうち殺してやりまさ。」
冬は深くなって来た。二人は狩に出て鬱憤《うっぷん》を晴し、退屈を凌いだ。兎の趾跡は、次第に少くなった。二人が靴で踏み荒した雪の上へ新しい雪は地ならしをしたように平らかに降った。しかし、そこには、新しい趾跡は、殆んど印《しる》されなくなった。
「これじゃ、シベリアの兎の種がつきるぞ。」
二人はそう云って笑った。
一日、一日、遠く丘を越え、谷を渡り、山に登り、そうして聯隊がつくりつけてある警戒線の鉄条網をくゞりぬけて向うの方に出かけて行きだした。雪は深く、膝から腰にまで達した。二人はそれを面白がり、雪を蹴って濶歩した。
獲物は次第に少くなった。半日かかって一頭ずつしか取れないことがあった。そういう時、二人は帰りがけに、山の上へ引っかえして、ヤケクソに持っているだけの弾丸をあてどもなく空に向けて発射してしまったりした。
ある日、二人は、
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