途中の土地が少し窪んだところに灌木の群があった。二人がバリ/\雪を踏んでそこへかかるなり、すぐそのさきの根本から耳の長いやつがとび出した。さきにそれを見つけたのは吉田であった。
「おい、俺にうたせよ――おい!……」
 小村は友の持ち上げた銃を制した。
「うまくやれるかい。」
「やるとも。」
 小村は、ねらいをきめるのに、吉田より手間どった。でも弾丸は誤たなかった。
 兎は、また二三間、宙をとんで倒れてしまった。

      五

 倉庫にしまってある実弾を二人はひそかに持ち出した。お互いに、十発ずつぐらいポケットにしのばせて、毎日、丘の方へ出かけて行った。
 帰りには必ず獲物をさげて帰った。
「こんなに獲っていちゃ、シベリヤの兎が種がつきちまうだろう。」
 吉田はそんなことを云ったりした。
 でも、あくる日行くと、また、兎は二人が雪を踏む靴音に驚いて、長い耳を垂れ、草叢《くさむら》からとび出て来た。二人は獲物を見つけると、必ずそれをのがさなかった。
「お前等、弾丸《たま》はどっから工面してきちょるんだ?」
 上等看護長は、勤務をそっちのけにして猟に夢中になっている二人を暗に病院から出
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