んな気がして、同様に銃を持って吉田のあとからついて行った。
 吉田は院庭の柵をとび越して二三十歩行くなり、立止まって引金《ひきがね》を引いた。
 彼は内地でたび/\鹿狩に行ったことがあった。猟銃をうつことにはなれていた。歩兵銃で射的をうつには、落ちついて、ゆっくりねらいをきめてから発射するのだが、猟にはそういう暇《ひま》がなかった。相手が命がけで逃走している動物である。突差にねらいをきめて、うたなければならない。彼は、銃を掌《て》の上にのせるとすぐ発射することになれていた――それで十分的中していた。
 戦闘の時と同じような銃声がしたかと思うと、兎は一間ほどの高さに、空に弧を描いて向うへとんだ。たしかに手ごたえがあった。
「やった! やった!」
 吉田は、銃をさげ、うしろの小村に一寸目くばせして、前へ馳せて行った。
 そこには、兎が臓腑《ぞうふ》を出し、雪を血に紅く染めて小児のように横たわっていた。
「俺《おれ》だってうてるよ。どっか、もう一つ出て来ないかな。」
 小村が負けぬ気を出した。
「居るよ、二三匹も見えていたんだ。」
 二人は、丘を登り、谷へ下り、それから次の丘へ登って行った。
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