ベリアへ来てから、もう三年以上、いや五年にもなるような気がしていた。どうしてシベリアへ兵隊をよこして頑張ったりする必要があるのだろう。兵卒は、露西亜人を殺したり、露西亜人に殺されたりしているのである。シベリアへ兵隊を出すことさえ始めなければ、自分達だって、三年兵にもなって、こんなところに引き止められていやしないのだ。
二人は、これまで、あまりに真面目で、おとなしかった自分達のことを悔いていた。出たらめに、勝手気まゝに振るまってやらなければ損だ。これからさき、一年間を、自分の好きなようにして暮してやろう。そう考えていた。
――吉田は、防寒服を着け、弾丸を込めた銃を握って兵舎から走り出た。
「おい、兎をうつのに実弾を使ってもいゝのかい。」
小村も、吉田がするように、防寒具を着けながら、危ぶんだ。
「かまうもんか!」
「ブ(上等看護長のこと)が怒りゃせんかしら……」
銃と実弾とは病院にも配給されていたが、それは、非常時以外には使うことを禁ぜられていた。非常時というのは、つまり、敵の襲撃を受けたような場合を指すのであった。
吉田はかまわず出て行った。小村も、あとでなんとかなる、――そ
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