ども無い。納屋の蓆の下に置いて忘れているような気もした。納屋へ行って探して見た。だが探しても見あたらない。彼女は頭の組織が引っくりかえったようにぐら/\した。すべての物がばら/\に離れてとびまわっているように見えた。物置きへまで持って行ってしまったような気もした。
「どうしたんだろう?」
一方では、物置きなどへは持って行った記憶がないのを十分知っていながら、単なる気持を頼って、暗い、黴臭い物置きへ這入って探しまわった。
「あんた、私の留守に誰れぞ来た!」
おず/\彼女は清吉の枕元へ行って訊ねた。
「いや。誰れも来ない。」清吉は眼をつむっていた。
「きみか、品が戻った?」
「いや。どうしたんだい?」清吉はやはり窃んできたのだなと考えていた。
「なんでもないけど。」
「なんでもないって、どうしたんだい?」
清吉は云いながら、唇の周囲に微笑が浮び上って来そうだった。
「いゝえ、なんでもないん。」
清吉は、黙っているのは良くないと思ったが、どうも自分からかくしたとは云い出せなかった。
お里は、お品か、きみがどっかへやったのかもしれない、と考えていた。清吉はうと/\まどろんで子供達が外
前へ
次へ
全20ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
黒島 伝治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング