呂敷包を片隅に置いて外へ出た。
 昼飯に、子供をつれて彼女は帰って来た。
「お母あ、どんなん買って来たん?」
 子供は、母にざれつきながら、買ったものを見るのを急いだ。
「これ、これだ。」
「うちにゃどれ?」
「これ。品にゃこれ……。きみにゃこれ……」
 お里は風呂敷包みの一方だけ開けて、品ときみに反物を見せた。清吉はわざと見向かないようにしていた。
「お母ア、コール天の足袋は? 僕のコール天の足袋は?」友吉がわめいた。
「あ、忘れとった。」お里はビクッとして「忘れてしもうとった。また、今度買うて来てやるぞ。」
「えゝい。そんなんやこい。姉やんにゃ仰山買うて来てやって、僕にゃ一つも買うて呉れずに!……コール天の足袋、今日じゃなけりゃいやだ!」
「明日買うてあげるよ。」
「えゝい、今日でなけりゃいやだ!」友吉は小さい両手で、母親を殴りつけた。
「よし、よし、じゃ、もうそうするでない。晩に新店《しんみせ》へでも行って来てあげるから。」
 お昼から、お里が野良仕事の為初《しぞめ》に、お酒と松の枝を持って畠へ行ったひまに、清吉は、寝床から這い出して、そっと、風呂敷を開けて見た。
 最初、借りて
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