四季とその折々
黒島傳治

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【テキスト中に現れる記号について】

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(例)かざり[#「かざり」に傍点]を
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 小豆島にいて、たまに高松へ行くと気分の転換があって、胸がすツとする。それほど変化のない日々がこの田舎ではくりかえされている。しかし汽車に乗って丸亀や坂出の方へ行き一日歩きくたぶれて夕方汽船で小豆島へ帰ってくると、やっぱり安息はここにあるという気がしてくる。四季その折々の風物の移り変りと、村の年中行事を、その時々にたのしめるようになったのは、私には、まだ、この二三年以来のことである。
 村の年寄りが、山の小さい桐の樹を一本伐られたといって目に角立てゝ盗んだ者をせんさくしてまわったり、霜月の大師詣りを、大切な行かねばならぬことのようにして詣るのをいゝ年をしてまるで子供のようにと思って眺めていたが、私にも年寄りの気持がいくらかわかってきた。娯楽もなし、生活の変化もなし、それで一本の樹を大問題にしたり、大師詣りをたのしみとしたりすると云えば、それもあるが、それ以上に、彼等は、樹が育って大きくなって行くのをたのしみとして見て
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