の寒気と氷の夜の風景が、はっきりと窓に映ってきた。
河を乗り起してやってくる馬橇が見えた。警戒兵としての経験からくるある直感で、ワーシカは、すぐ、労働組合の労働者ではなく、密輸入者の橇であると神経に感じた。銃をとると、彼は扉を押して、戸外へ躍《おど》りでた。扉が開いたその瞬間に、刺すような寒気が、小屋の中へ突き入ってきた。シーシコフもつづいて立ちあがった。
「止れ! 誰れだ?」
支那人は、抑圧《よくあつ》せられ、駆逐《くちく》せられてなお、余喘《よぜん》を保っている資本主義的分子や、富農や意識の高まらない女たちをめがけて、贅沢品を持ちこんでくるのだ。一足の絹の靴下に五ルーブルから、八ルーブルの金を取って帰って行く。そして国境外では、サヴエート同盟に物資が欠乏していると、でたらめを飛ばした。
一方では、飲酒反対、宗教反対のピオニールのデモを見習った対岸の黒河の支那の少年たちが、同様のデモをやったりするのに、他方どうしても、こちらの、すきを伺っては、穀物のぬすみ喰いにたかってくる雀のように、密輸入と、ルーブル紙幣の密輸出を企《くわだ》てる支那人があるのを、ワーシカはいまいましく思った
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