な闘争を忘れさせた。そして、ゼーヤから掘りだしてきた砂金を代りにポケットへしのばして、また、河を渡り、国外へ持ち去った。
今は酒は珍らしくはない。国内で作られている。
今は、五カ年計劃の実行に忙がしかった。能率増進に、職場と職場が競争した。贅沢品《ぜいたくひん》や、化粧品をこしらえているひまはなかった。そんなものをかえりみているどころではなかった。
寒気が裂けるように、みしみし軋《きし》る音がした。
ペーチカへ、白樺の薪《まき》を放りこんだワーシカは、窓の傍によって聴き耳を立てた。二重硝子を透して遠くに、対岸の黒河の屋根が重い支那家屋の家なみが、黒く見えた。すべてがかたまりついた雪と氷ばかりだ。部分部分が白く、きらきらと光っていた。
また、きしきしという軋りが聞えて、氷上蹄鉄《ひょうじょうていてつ》を打ちつけられた馬が、氷を蹴る音がした。
「来ているぞ。また、来ているぞ」
ワーシカは、二重硝子の窓に眼をよりつけるようにして、外をうかがった。「偉大なる転換の一年」を読んでいたシーシコフは、頭を上げて、スヰッチをひねった。電灯が消えた。番小屋は真暗になった。と、その反対に、外界
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